特別企画

 野瀬泰申の東海道暴れ食い 3月12日(月) しぞーかおでんで峠越え

 土曜日は新聞の原稿を書いて蔦さんとJIROMALいずみさん推奨の居酒屋に行った。東京から駆けつけたデスクを交えてプチ宴会。いろいろ食べたが特に印象に残ったのは「銀でべらの姿焼きせんべい」だった。

「でべら」という小魚を開いて味付けし、干した後に素揚げしたもの。瀬戸内海などでよくみる干物のでべらは木槌でたたかないと食べられないほど固いが、こちらは外パリ中フワで実に酒に合う。

静岡の居酒屋で出た「銀でべらの姿焼きせんべい」

 もう1品が「キムチの天ぷら」。書いて字のごとしの物件で、天ぷらながらキムチであるという当たり前のようで不思議なものであった。これも酒の好敵手。

 この店はおそらく静岡でも名店であろう。主人夫婦の気どらなさ、酒の選び方の鋭さ、値段の優しさなどどれをとっても一級である。いずみさん、ありがとうございました。

デスク悶絶の青ネギカレーうどん

 翌日はデスクと静岡巡り。昼にネギと出しつゆの関係を検証する目的もあってそば屋に入ったが、そこでデスクが注文したのがご覧の「カレーうどん」であった。

 カレーうどんに青ネギという取り合わせがどうしても納得できないデスクは、頭で考えるくらいなら胃袋で考えた方がわかりやすいと思い果敢に挑戦したのである。しかし関東の白ネギ文化に汚染されているデスクは「ネギのシャキシャキ感こそカレーうどんの命なのに、これは何ですか? 青ネギがまるでクタクタのニラみたいじゃないですか」とぶーたれながら食べたのである。

しぞーかおでんをパン屋さんで食べる

 ぶーたれようが何しようが、私はこれでいいのである。シャキシャキ感はネギではなくタマネギで出しているから問題ないの。

 それに先だち、私たちはしぞーかおでんをパン屋さんで食べていた。おでんを出す駄菓子屋がパン屋さんになったので、いまでもひとつの店に2店が同居したみたいな形になっている。食パンを袋に詰めている店主の横で、鍋から好きなおでんを取るというのはなかなかできる体験ではない。牛すじやタケノコなどが100円。あとは60円という駄菓子屋値段であった。

 私たちは土日にかけて昼も夜もおでんを食べつつ、一方でもうひとつの確認作業に追われていた。ポリタンクの色問題である。2人で同じところを回っても無駄なので各自独自行動をとりながらあっちこっちでポリタンクに目を光らせたのだった。

キムチの天ぷら

 その結果、私は個人の住宅に赤とか白とかが置かれている状況を現認するとともに、中年女性を中心に聞きとりをしたところ「うちは赤」「うちは青」という「混在」を伺わせる証言を得たのである。

 そのころデスクはガソリンスタンドなど業務関係を中心に取材し、あるGSでは赤を、別のGSでは青を売っている現場を押さえた。中でも1人の客が赤青両方のポリタンクを持参し、灯油を入れているところを現行犯で摘発したのはお手柄だった。

赤白混在

 観察の印象を言えば、静岡は赤を基本としながらも青、白などが混在しているということである。東京のように赤ばっかとか。大阪のように青ばかりですがという状況ではない。境界線のにおいが色濃く立ちこめている。

 イルカの方はJR静岡駅ビルの居酒屋店頭で「イルカの味噌煮あります」の張り紙を見ているので、まだイルカ地帯と言える。

 ということがあって本日は静岡市役所前を午前9時半に出発し、てくてくを始めた。飲食店が少ないため視線はもっぱらポリタンクに向かう。家々の軒先や物置やガレージばかり見ていると、自分でも「空き巣のロケハンに間違われたらどうしよう」と不安になってくる。

 午前10時半、安倍川を渡る。

赤青混在

 11時05分、丸子着。リビングショップで赤を売っている。

 11時17分、丸子6丁目の民家では赤青混在。その先の民家では赤白混在。

 11時35分、丸子橋到着。ということは、とろろ汁の丁字屋着。が写真を撮るだけ。

 午後0時50分、宇津ノ谷トンネル。そこを右に曲がって旧街道沿いの集落へ。民家がそれぞれ「向山」「丸子屋」「車屋」といった昔ながらの屋号の看板を掲げ、街道ムードが漂う。時間感覚が違っていそうな佇まいである。

宇津ノ谷の集落

 とほほな昼食後、峠に入る。杉や孟宗竹が生い茂る中を行く山道で、距離は短いもののいかにも峠を越えているという実感がある旧街道である。

 3時15分、岡部宿着。民家に赤いポリタンク。しかし灯油給油車は白を積み、商店のガラス戸越しに黄色が見えるという混在ぶりである。黄色いポリタンクを現認したのは今回が初めて。現在のところポリタンクには赤、青、白、黄色がある。紫とか出てきたらどうしよう。

峠の山道

 今日は1日、強風に煽られた。ときには風速10メートルを超す風で、帽子をかぶるどころか真っすぐ歩くのも難しいような状況であった。日差しは強くとも風のせいで体感温度は低く、手がかじかむ。

 途中のドライブインで100円の塩辛を買ってカップ酒を引っかけたい誘惑にも駆られたが、いまのところその楽しみは夜にとってある。

 ホテルの外は依然として強い風が唸りをあげている。このホテルには大浴場があるらしい。ゆっくり体を温めてうなぎでも食べるとしよう。

 本社の「こころ」面編集長から大刷りが届いた。15日夕刊から始まる新聞連載の1回目である。

 新聞の方もよろしくね。

快晴にして強風
府中(静岡)―5.6km→丸子―7.8km→岡部
実歩数2万3665歩 16.6km

(特別編集委員 野瀬泰申)


<特別付録:デスクの「ポリタンクを探して三千里」>

しぞーかおでんの出しは黒いが塩辛くない

 ということで、僕もポリタンクを探し歩きました。

 まず考えたのは、どうすれば混交ポリタンクに遭遇できるのか――。

 考えついたのはホームセンターを探す、ということでした。大きな団地のそばにならホームセンターがあるだろう、と考え、とりあえず静鉄のバスセンターに行って、団地に行くバスで本数の多い路線を探しました。バスの本数が多ければ、団地の規模も大きいだろうと考えたのです。

 僕が目をつけたのは足久保団地方面行きのバス。本数が多く、路線図を見ると、終点の足久保団地までに安倍口団地、美和団地と2つの団地を経由する。とりあえずこれに飛び乗ってみました。

 市街中心部を抜けると、車窓から見えるのはのどかな風景ばかり。途中「日曜大工センター」という看板を発見。しかもその後ろには巨大な建物。僕はバスを飛び降りました。しかし「日曜大工センター」は木造の小さなお店でしかもお休み。巨大な建物はパチンコ店でした。トホホ。

一面の茶畑

 その次のバスに再び乗車して、団地に向かうも、安倍口団地は想像していたような大規模なものではなく食品スーパーと洋品店しか見あたらない。美和団地に至っては建て売り住宅の集合体でした。

 しかたなく作戦を断念、美和団地の次のバス停で降りたところ、そこは一面の茶畑でした。再びトホホ…。

 中心地へ戻るバスが、静岡駅よりも先に伸びていたことから、しばらくそのバスに乗ってホームセンター探しを続けました。しかし静岡中心部を過ぎ、清水へ向かう国道1号線を走るものの、いっこうにホームセンターは見あたらない。バスが国道から外れたところで、再びバスを降りました。三度、トホホ…。

 とにかく、あとは静岡駅まで歩いてみよう。とりあえずガソリンスタンドの店頭をのぞけばポリタンクくらいあるだろう、と半ば諦めムードで歩いてみることにしました。

青いの発見

 幸いに、ロードサイドにはいくつものガソリンスタンドの看板が見えます。しかし、静岡の桜の開花予想は15日、すでに春近しです。どこのスタンドにも灯油を買い求める人の姿がない…。

 肩を落としながら30分ほど歩いたでしょうか、繁盛店とおぼしきセルフ式のスタンドに遭遇。事務所前に目をやるとビニールに包まれた青いポリタンクが積んでありました。喜々として駆け寄ってシャッターを切る。しかも灯油コーナーで給油中の客のポリタンクは赤です。

 やはり「混交地帯なんだ」。確信をさらに深めました。しかし積んである青いポリタンクと給油コーナーのポリタンクは離れていて1枚の写真に赤青両方を収めることは不可能です。お願いして構図を作ってもうおうか、とも思いました。しかし時節柄、それはよくない、そう判断しました。

赤いの発見

 もう少し歩いてみよう。

 しばらくするとお客さんの姿こそないものの、やはりビニール袋に入った今度は赤い新品のポリタンクを置くスタンドがありました。なんとか赤と青が肩を並べたツーショットはないものか…。

 間もなく静岡駅、という辺りで、あれほど探しても見つからなかったホームセンターの看板を発見! 紛れもなくホームセンターです。僕は重い機材を背負ったまま走りました。店の前に至ると「灯油」の看板も。

 しかし店先に積まれている新品のポリタンクはすべて赤でした。四度、トホホ…。

ついに発見

 肩を落として帰ろうとすると、新品ポリタンクの山の隣では、給油機で灯油を販売していました。そして、その給油機のホースの先にぼんやり目をやると、あったのです。

 見事に、赤・青2つのポリタンクが並んでいるではありませんか! 急いでカメラを構え、とにかくシャッターを切りました。

 給油が終わった赤青のポリタンクは、地元の方でしょう、2つ並べて台車に乗せ、駐車場へと消えていきました。

 あぁ、ポリタンクにこれほどの達成感を覚えたのは…、絶対初めてです。

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